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さらに理解を深めるための顕微鏡知識

水浸対物レンズと油浸対物レンズの使い分け

1. 分解能と開口数

液浸系対物レンズのお話に入る前に、そこでポイントとなる“開口数”と“分解能”について、簡単にご説明します。

開口数

図1 対物レンズの開口数

開口数は対物レンズの性能を決める重要な値であり、分解能、焦点深度、明るさに関係する値です。開口数はNA( = Numerical Aperture)とも呼び、以下の式で表されます。

NA = n・sinθ

n:標本と対物レンズの間の媒質の屈折率
θ:光軸と対物レンズの最も外側に入る光線とがなす角度

分解能

理想光学系で2つの点光源が2点として見分けることができる最小間隔を分解能と言い、この分解能はレイリーの式から、以下のように表すことができます。

分解能 = 0.61λ / NA
NA:開口数
λ:波長

したがって、開口数が大きいほど分解能は小さくなります。

2. 液浸対物レンズ

光学顕微鏡では、標本と対物レンズの間を液体で満たすことによって開口数を大きくし、より小さい分解能を得るという方法が古くから用いられています。この液体(浸液)には表1に挙げるようなものが一般に使用されており、理想的な状態では浸液の屈折率が高いほど、分解能は小さくなるといえます。しかし、観察する標本の種類や状態によっては、“浸液の屈折率が高い = 分解能が小さい”ということが常に成り立つとは限りません。それは、浸液の種類によってそれぞれ適した使い方があるからです。ここでは、浸液としてオイルと水をとりあげ、それぞれの対物レンズの特徴について考えてみたいと思います。

浸液 屈折率(nd) アッベ数(νd)
オイル 1.515 44
グリセリン 1.473 61
1.333 55
  • *
    オイルとグリセリンは23℃での値、水は20℃での値

3. 油浸対物レンズと水浸対物レンズ

油浸対物レンズ

図2 標本がカバーガラスに接している時:油浸対物レンズ

標本と対物レンズの間をオイルで満たしてある対物レンズを油浸対物レンズと言います。顕微鏡に使用されているオイルの屈折率は、通常カバーガラスとほぼ同じ1.52程度ですが、水やグリセリンと比較して最も高く、より大きな開口数を得ることができます。

大きな開口数は解像力を高めるだけでなく、蛍光画像の明るさにも寄与するため蛍光観察時においても有利に働きますが、一般的にオイルは水やグリセリンに対して自家蛍光が大きいため、厳しい条件下では注意が必要です。(最近では低自家蛍光オイルが開発され、以前に比べ大幅に改善されています。)

しかし、これらの特長も使用する条件によっては、十分に発揮されない場合があります。まず、図2をご覧ください。この状態が設計時に想定されている観察状態で、このようにカバーガラスと観察したい試料が接している時には、球面収差がほぼ完全に補正されており、上記のような“浸液の屈折率が高い = 分解能が小さい”という理論通りの結果を得ることができます。また、たとえ試料がカバーガラスから離れていたとしても、一般の顕微鏡固定標本のように、ガラスと極めて近い屈折率のバルサムや合成樹脂の中に封入されている状態では問題ありません。

図3 標本がカバーガラスから離れている時:油浸対物レンズ

これに対し、生体試料*では水に近い屈折率の媒質中に観察対象がある場合が多く、そのような状態での標本〜対物レンズ第1面付近の様子をモデル化したものが図3です。このときには、カバーガラスと観察したい試料との間に水が存在するため、NAが1.4である油浸対物レンズも実質NAは1.33まで減少し、その境界での屈折により、大きな球面収差が発生してしまいます。これは水の厚みが10μm程度であっても、コントラストの低下など、像質劣化の原因となります。

  • *
    生体試料の屈折率
    細胞の屈折率≒1.35 培養液の屈折率≒1.33

水浸対物レンズ

前記のような生組織切片や培養液中の細胞、厚みのあるスライス試料の内部などを観察するには水浸対物レンズが適しています。

水浸対物レンズは、標本と対物レンズの間を水で満たしたもので、その標本〜対物レンズ第1面付近の光線の様子は図4のようになります。このように油浸対物レンズと違い、カバーガラスと標本との間に水が存在しても、それが原因で球面収差が発生することはありません。また、細胞や培養液も水の屈折率に近いため、組織切片の内部などを観察する場合においても球面収差の発生は僅かです。逆に、水浸対物レンズではカバーガラスと水の屈折率差が大きくなるため、カバーガラスの厚み誤差の影響を受けやすくなります。そのため、開口数の大きな対物レンズのほとんどには、補正環が備えられており、カバーガラスの厚み誤差だけでなく、前述の試料と水の屈折率差による僅かな球面収差をも補正することが可能です。(詳しくは「カバーガラスと補正環」を参照してください。)

図4 標本がカバーガラスから離れている時:水浸対物レンズ

したがって、水浸対物レンズでは、およそ200μmの深さまでほとんど性能を落とすことなく使用することができ、特にコンフォーカル顕微鏡との組み合わせでその威力を十分に発揮します。

4. 油浸対物レンズと水浸対物レンズの比較

では、実際に油浸対物レンズと水浸対物レンズで観察した時の違いを見てみましょう。まず、設計時に想定されている観察状態、つまりカバーガラスと観察したい試料が接している状態で観察した時では、油浸対物レンズ(図5-a)、水浸対物レンズ(図5-b)、それぞれで双方の性能が十分に発揮されています。

次に生態試料で多く見られるようなカバーガラスと観察したい試料の間に水が存在している状態で観察した画像を比較してみましょう。図6-aは油浸対物レンズを使用したときであり、図6-bは水浸対物レンズを使用して観察した画像です。この画像では、カバーガラスと標本の間に11μmの水の層が入っています。この2つの画像を見ると、油浸対物レンズの方(図6-a)は図5-aと比較して大きく性能が劣化していますが、図6-bの水浸対物レンズでは図5-bと比較してほとんど性能が落ちていません。つまり、カバーガラスと試料の間に水が存在しているような標本では、このような状態でも性能が劣化しない水浸対物レンズが適していることがわかります。

a:油浸対物レンズ        

b:水浸対物レンズ

図5 カバーガラスと試料が接している状態での観察

a:油浸対物レンズ        

b:水浸対物レンズ

図6 カバーガラスと試料の間に水がある状態での観察

ひとくちに液浸対物レンズと言っても、使用する浸液によって、それぞれに特徴があることがおわかり頂けましたでしょうか。また、観察に適した対物レンズを選ぶときの参考になればと思います。

参考文献

Mel Brenner:Imaging dynamic events in living tissue using water immersion objectives, Reprinted from American Laboratory (April 1994)