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位相差顕微鏡の新手法~アポディゼイション位相差法

1. はじめに

位相物体は、透過光においては光の強度を変えず、位相のみを変える無色透明な物体です。生細胞は位相物体の代表的なものです。位相物体を観察するために、位相差顕微鏡法がZernikeにより、微分干渉顕微鏡法がSmithやNomarskiにより20世紀半ばに発明され普及しています。一方近年、画像取得手段はビデオカメラの普及などから、画像の信号に電気的処理を施して観察するビデオ顕微鏡法と呼ばれる方法が普及しています。そして顕微鏡の光学系にも、ビデオ顕微鏡法に適するための改良が加えられています。

ここでは、位相差顕微鏡の新しい手法であるアポディゼイション位相差法に焦点を当て、ビデオ観察の観点を加えて、様々な試料の画像を例に示してご紹介します。

2. アポディゼイション位相差顕微鏡

2-1: 位相差顕微鏡

図1

位相差顕微鏡では、位相物体によって生じる光の位相のずれを、光の強弱のコントラストに変えて観察します。位相差顕微鏡は、通常の明視野顕微鏡の照明光路中にリング形状の開口絞り(リング絞り)を設け、このリング絞りの共役位置に、位相板と呼ぶ特殊な空間フィルタを対物レンズの光路中に設けた顕微鏡です。(図1)

位相物体を通過した光は周囲の光と位相差を生じますが、位相物体で回折された回折光、および透過したままの直接光と分けて考えることができます。これら回折光と直接光は、位相差が小さい場合、位相が4分の1波長だけずれています。これを利用して、従来型の位相板ではリング絞りの共役部分に、透過光の位相を4分の1波長だけずらす作用を持つ位相膜を配置します。このため像面では、回折光と直接光は干渉して強め合ったり弱め合ったりして光の強弱になります。位相物体によって生じる位相差量が小さい場合には、回折光の強度は位相差量に比例します。回折光は直接光に比べ弱いので、位相膜部分には吸収膜を配置して、直接光を弱めてコントラストが高まるように工夫しています。光の吸収率を対象試料の位相差に応じて普通様々変えた対物レンズが準備されています。たとえば位相差対物レンズには、DLL、DL、DMのように表示されています。Mは位相差量のごく小さい物体に向いており、DLLは比較的万能ですがコントラストが低く描写され、DLはこれらの中間です。

しかし、それでも適する位相差の範囲から外れると、位相物体の像にハロというアーティファクトが生じます。ハロは、大きな構造物の像の周りに見られる光の縁取りのような現象のことで、物体の境界の細部構造を覆い隠し、位相差顕微鏡に不可避の欠点と考えられていました。

2-2:アポディゼイション位相差法

アポディゼイション位相差法は、Zernikeの位相差法にアポディゼイションを応用した方法です.このアポディゼイション位相差法では、位相物体の像に生じるハロを減らし、微細部分を強調できる特徴を持ちます.アポディゼイションは、ギリシア語の「足(pod)」を「取り除く(a-)」に由来する造語で、回折限界の像に現れるエアリーの円盤の周辺環を取り除くために光学系の開口部に施した瞳関数のことです.現在では意味が拡張され、像を加工するために開口部に施すことを全般的に指すようになっています。

アポディゼイション位相板(図2)では、リング状の位相膜の周り(両側)にアポディゼイションのための吸収膜を設けています.追加された吸収膜の作用で、位相物体で生じる回折光の強度を選択的に弱めます.回折光の広がり角は試料の大きさによって変わり、小さな物体では大きな角度で回折し、逆に大きな物体では小さな角度で回折します.つまりアポディゼイション帯の幅を変えることで効果を生じる物体の大きさを変えることが出来ます。(図2)

ここで用いたアポディゼイション位相差対物レンズでは、直径10μmの物体で生じる回折角を基準に幅を決定しました.細胞のように直径10μmより大きな物体では回折光のほとんどが弱められるためコントラストが低く描写され、逆に核小体や顆粒のように小さな物体ではコントラストが高く描写されるしくみです.さらに回折光の強度は、前述のとおり位相差量に比例するので、位相物体の屈折率が一定と仮定するならば、生じる位相差量は位相物体の大きさに比例することになります.つまり、物体の大きさが大きな物体で生じやすいハロを減らすことが出来ます。

図2

図3は、ラット由来の線維芽様細胞3Y1の画像で、位相差対物レンズ(a)アポディゼイション型 Plan Fluor ELWD ADL 40×C(開口数0.6)と(b)従来型Plan Fluor ELWDDM 40×C(開口数0.6)による比較です。撮像はビデオカメラによる表示画像のコントラストの分布を、図中に示した度数分布図(横軸:階調、縦軸:度数)を用いて求め、度数分布図の形状が似た状態になるようにビデオ画像を調整して行いました。

図3-a

図3-b

図4は、ラット由来のニューロブラストーマとグリオーマの雑種NG108-15細胞の画像です。位相差対物レンズ(a)プランフルオールELWD 40×ADL(開口数0.6)と(b)プランフルオールELWD 40×DM(開口数0.6)によって、ビデオカメラで図3と同様の方法で撮像しました。(a)のADL位相差対物レンズは細胞質内の顆粒をシャープに捕えている上、細胞の周りのハロも少ないことが判ります(画像左上の細胞で顕著)。

図4-a

図4-b

図5

図5は、チキン由来のDRG神経細胞をADL位相差対物レンズPlan Fluor ELWD ADL40×C(開口数0.6)で撮像した画像です。樹状突起の中に顆粒が良く見て取れます。

3. おわりに

新しいアポディゼイション位相差顕微鏡法を紹介し、様々なビデオ画像を示しました。この方法によって、ハロというアーティファクトを減らし、試料中の微細な部分を観察できるようになりました。今後も改良を加え、見えない物を見るという顕微鏡の要求に応えていきたいと思います。

参考文献
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    S. Inoue: Video Microscopy (Plenum, New York, 1986).
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    木村元喜: 生体の科学 43, pp. 434-435 (医学書院, 1992).
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    大瀧達朗,加藤薫,吉田史子: 電子顕微鏡 37sup.2, pp. 105-108 (日本顕微鏡学会,2002).
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    T. Otaki: Opt. Rev. 7, pp. 119-122 (2000).
  • 7.
    T. Otaki: U.S. Patent 6317261 (2001).

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